2015年12月9日開催
食洗協年末講演会「新型ノロウイルスの最新情報と予防対策について」で好評を博す
2015年12月9日、愛知医科大学 医学部 客員教授の西尾 治先生をお招きし、「新型ノロウイルスの最新情報と予防対策について」という演題で年末講演会が開催されました。
演題
新型ノロウイルスの最新情報と予防対策について
講演内容
１） 従来型ノロウイルスＧⅡ.４の出現
２） 新型ノロウイルスＧⅡ.１７の出現
３） ノロウイルスの特徴
４） 予防対策
多くのウイルスは住民の70％程度が感染して抗体を持つとヒトからヒトへの感染が継続できなくなり消滅するそうです。しかし2004年日本でも出現したノロウイルス従来型は2014年末までの長期間にわたって大流行を継続しました。このような継続例は過去にありません。なぜ可能になったかというと期間中、遺伝子の大きな変異を2から3年ごとに4回起こし、それ以前の流行株に対するヒトの抗体を免れてきたためです。
2014年9月～2015年3月の期間における中国でのノロウイルス遺伝子型の検出状況によれば、最初は殆ど従来型だったのが僅か半年後にはほぼ新型になりました。さらにタイ、香港、ヨーロッパ、アメリカでも新型が検出され、アジア地域では2014年末から新型の感染が拡大しており、日本でも2015年以降この新型に変わってきています。
新型の特徴は次の通りです。
① 新型の発症者は殆どが成人（小児は従来型）であったが、しかし、夏以降は小児でも殆どが新型となっている。
② イムノクロマト法という現行の検出法を用いた場合、新型の検出感度は従来型の約1/1000で、非常に検出が困難。
③ アメリカのデータでは、発症するのに必要な個数はインフルエンザが約1000個に対し、新型は約18個と一段と強い感染力。
④ 変異能力が一段と高いため再感染する可能性がある。
続いてノロウイルスの留意すべき特徴を説明されました。
① 毒性が強く感染力が大きい
大きさは細菌に比べ1/30～1/100と非常に小さいので大量のウイルスが付着し、しかも例えば手の皺の奥まで入り込むことができるので容易に除去できない。また遺伝子増殖のため増殖力が非常に強く、しかも感染力が強いので少数でも発症する。さらに変異能力が高く、ヒトに抗体ができても容易に免れる。ただ、生きた細胞に寄生しないと増殖できない。
② 環境中で安定
高温（85～90℃、90秒以上）でないと死滅しない。また食中毒、感染症を発症した場合、症状が消えてもふん便中にウイルスの排出が続く（10日間程度）。さらに嘔吐物を放置した場合、乾燥後に空気中に浮遊し、新たな感染源となる。
③ 冬期以外にも流行をおこす。
低温では増殖しないものの死滅しにくい。下水中にも年間を通して大量に存在するため、冬場だけでなく年中感染が起きている。
④ 集団施設における発生の原因となることが多い。
有効なワクチンや特効薬がなく、容易に感染するため小児や高齢者の施設、学校等は要注意。
⑤ 不顕性
非発症者でもノロウイルスが検出される場合が多く、留意が必要。
先生はこれまで発生したノロウイルスによる集団食中毒の具体的な事例の調査結果から施設や従事者の問題点を指摘され、続いて我々が出来る具体的な予防対策と注意点を説明されました。
① 消毒
多くの人が触れる場所を消毒。洗面所、トイレ、風呂、ドアノブ、テーブル、階段の手すり、等々。特にトイレではウイルスが拡散しないような注意点を指摘。またパソコンや電話は盲点となり易く要注意。
② 家庭内で
・ 手洗い、うがいを徹底し、タオルの共用は不可。子供や高齢者の手洗いを補助。
・ 患者の下着は感染していない家族とは別に洗濯し、次亜塩素酸ナトリウム（塩素濃度200ppm）あるいは熱湯で消毒。
・ 患者の食器は最後に洗い、次亜塩素酸ナトリウム（塩素濃度200ppm）あるいは熱湯で消毒。
・ 家族が共通して触れる身の回りの設備や用具をまめに消毒。
③ 嘔吐物で汚染された食器等の消毒方法
・ 清潔な食器と区別して、洗浄前に次亜塩素酸ナトリウム（塩素濃度200ppm）に5分間漬け置きし、消毒した後、洗浄する。
・ 次亜塩素酸ナトリウムに適さない食器は酸素系漂白剤を使用する。
・ 加熱消毒の場合は85～90℃で90秒間以上続ける。
④ 他人への感染源とならないために
・ 下痢・嘔吐があればただちに医療機関を受診し、感染の有無を確認する。
・ 就労者は出社せず、電話やメール等で連絡する。
・ 二枚貝、特に牡蠣は生食しない。
・ 嘔吐物の処理は使い捨てのマスクや手袋を必ず着用し、新聞紙等に嘔吐物を吸い取らせ、ビニール袋に密封し、高濃度の次亜塩素酸ナトリウムをふりかけて捨てる。
・ 嘔吐物を処理する人以外はすくなくとも3m以上離れる。
⑤ 海外旅行をするときは
・ 生ものは食べない。加熱できる携帯道具を持参。
・ 渡航先の感染症状況を厚生労働省検疫所のホームページ等で事前に把握する。帰国後、体調不良の際は医師の診断を受け、海外に出かけた日時、期間、国名等を伝える。
先生は新型ノロウイルスの最新情報、従来型との違い、ならびに予防対策を非常に分りやすくご説明されました。特に新型ノロウイルスに関しましては当協会では入手できない貴重な情報でした。 ノロウイルスの原因となる食品のうち、ノロウイルスを取込む二枚貝が10～20％で残り80～90％の食品はヒトが何かにつけることによるそうです。一方、ノロウイルスはヒトの体外に出ると冬季では約20日で死滅するそうです。従って調理するときや食べるときの衛生管理の徹底、また毎日の規則正しい生活による免疫力の向上、等々、常に予防に留意すれば大部分の食中毒や感染症は防止できるとのご説明は大変参考になりました。しかもこれらの予防対策は、だれもが実践できる基本的なことでその徹底的なルーティン化が極めて重要と実感できました。 「ノロウイルス感染症を没滅する事は困難であるが食中毒の予防は可能である」とのお言葉がとても印象に残った大変有意義なご講演で、続いての質問応答も活発にされ、一層理解を深められました。