ドアタイプの洗浄機を例にとって、実際の洗浄における基本作業を説明してみましょう。洗浄機は正しく使うことが大切です(表-1)。
作業の流れ①
作業前の点検
作業の流れ②
前処理行程
作業の流れ③
食器洗浄機
洗浄工程、すすぎ行程
作業の流れ④
食器の保管
食器洗浄のこれらの行程は「温度管理」が非常に重要で、汚れを充分に落とし、さらに、食器の殺菌、乾燥を助けるため、各行程のタンクには、自動コントロール装置付きの加熱、保温装置が装備されています。各行程の温度は、米国のNSF規格を例にとってみると、表-2のように定められています。
行程 | タイプ | ||
ー | シングルタンク ドアタイプ |
シングルタンク コンベアタイプ |
マルチタンク コンベアタイプ |
洗浄 | 65℃以上 (150℉以上) |
71℃以上 (160℉以上) |
66℃以上 (150℉以上) |
循環すすぎ | ー | ー | 71℃以上 (160℉以上) |
仕上げすすぎ | 82~91℃(180~195℉以上) |
食器洗浄機に使用する洗浄剤は、洗浄液を高圧で噴射するという使用条件に適合しなければなりません。通常の中性洗剤や石けんなどの高起泡性のものは、泡がじゃまして洗浄効果や作業性が低下するため、専用の食器洗浄機用洗浄剤を使用することが必要となります。洗浄剤としては、液体・粉体・固体の製品形態がありますが、いずれの形態でも、食器洗浄機用洗浄剤の第一の特徴は無起泡性です。そのために、一般的な中性洗剤とは成分が異なり、水溶性の高い無機塩類(主としてアルカリ塩)を主成分としており、主たる洗浄効果は、アルカリの化学作用によってもたらされています。
これら製品に配合されている成分は、洗浄基剤である水酸化ナトリウム・カリウム、炭酸ナトリウム、けい酸ナトリウムなどで、金属イオン封鎖剤として、ポリりん酸ナトリウム、エチレンジアミンテトラ酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウムなどが使われており、これに低起泡性の界面活性剤などがごく少量配合されています。このような洗浄剤は、食器洗浄機の供給装置に内蔵されている感度の高いセンサーによって、所定濃度(0.1~0.3%)に巧みにコントロールされて、自動的に供給されます。このように、洗浄剤濃度は常に自動的に適切にコントロールされており、さらに、多量の温水を利用して、十分なすすぎを行ないますので、食器への残留は食品衛生上問題ないものと考えられます。
表-3に食器洗浄機用洗浄剤と液体中性洗剤の主な特徴を比較してみました。
洗浄機用洗浄剤 | 中性洗剤 | 主成分(例) | アルカリ性無機塩 か性アルカリ けい酸塩 炭酸塩など |
界面活性剤 陰イオン界面活性剤 非イオン界面活性剤 両性界面活性剤 |
主作用 | アルカリ性の化学作用 | 界面活性作用 |
起泡性 | 無起泡性 | 高起泡性 |
液性 | アルカリ性 | 中性 |
食器洗浄機用の洗浄剤には、りん酸塩の配合の有無によって「有りん、無りん」に別れ、またか性アルカリ量によって「劇物、非劇物」があります。さらに「塩素剤含有の有無」、「軟水用、硬水用」等何十種類もの製品があり、ユーザーにとってはどの洗浄剤が最適なのかなかなか難しい問題です。 要は、ユーザーの使用形態に最もマッチしたものを選択すればよいわけですが、食器の種類から料理内容、使用頻度、汚れ具合、厨房のスペースやレイアウト、食器洗浄機のタイプ、作業者の経験度、さらには価格から水質、環境に与える影響、アフターサービス体制、ランニングコスト、洗浄力、安全性、そして洗浄剤設置場所のスペース、使い易さに至るまで、決定するためのファクターは実にたくさんあります。 このため、洗浄剤の選択には、「洗浄」という作業に対しての深い理解と幅広い知識が要求されます。ユーザーを中心に洗浄剤メーカー、食器洗浄機メーカーが一体となって、それぞれの立場から問題点を見極めたうえで、洗浄剤を選択することが大切です。
機械洗浄における洗浄効果を高めるために、洗浄剤以外の薬剤もよく使用されています。以下主なものについて説明します。
リンス剤(乾燥仕上剤)とは食器洗浄機によって洗浄した際に、食器についた水滴の乾燥時間を早め、かつ食器に付着するすすぎ水によって乾燥後生ずるスポット(斑点)を防止し、衛生的にも、見た目にもきれいにするために、すすぎ水に注入する仕上剤です。
リンス処理が普及してきた理由は、良好な洗浄仕上効果が得られるばかりではなく、タオリングが不要になるため、労働力および作業スペースが削減できます。もちろん、安全性、衛生上の問題がすべての面に優先しますが、タオリングによる汚れの再付着がないため、リンス処理は食器を衛生的に管理するためにも非常に有益です。このような面から、現代社会のニーズに適応していることが最大の理由であり、今後もリンス処理の必要性はますます増大するものと思われます。
1973年、厚生省告示98号で「飲食器は飲用適の水ですすがなければならない」旨使用基準が定められました。したがって、すすぎ水は上水道の水質基準に適合する必要があるために、わが国のリンス剤は安全性の高い成分のみから作られ、また、リンス供給装置を用いて自動的にすすぎ水に注入され、適正な濃度(1万分の1~2万分の1程度)で使用されています。
デンプンやタンパク質は洗浄機洗浄では除去しにくいため、洗浄前に水あるいは温水に浸漬してから洗浄すると除去効果が高まります。これを前浸漬と呼び、このとき、さらに除去効果を高める目的で前浸漬剤がよく利用されます。
長期間食器を使用していると、通常の食器洗浄機による洗浄だけでは落とし切れない色素などの汚れが目立つようになってきます。このような汚れを除去するときに用いられるのが漂白剤です。
一般的に市販されている漂白剤は、「酸素系」と「塩素系」の2種類があります。酸素系では「過炭酸ナトリウム」や「過硼酸ナトリウム」が主成分であり、塩素系では「次亜塩素酸ナトリウム」等が主成分です。これらの漂白剤は、いずれも色素を酸化分解することによって食器をもとのきれいな状態に戻すものですが、食器の種類によっては使用条件を間違えると材質をいためる場合もありますので、注意が必要です。
なお、塩素系の場合、酸性物質と混ざりますと有害な塩素ガスを発生しますので、注意が必要です。日本食品洗浄剤衛生協会では、該当商品に「まぜるな危険」の注意表示をするよう申し合わせています。
食器洗浄機では、食器の表面に付着している汚れを洗浄除去することができますが、銀器(銀メッキされた食器)は、いろいろな原因によって銀が化学変化して変色し、通常の洗浄機による洗浄ではもとの状態に戻すことはできません。このような場合に、銀本来の輝きを取り戻すために使用するのが銀器専用洗浄剤です。液体タイプや、クリーム状、粉末を溶かして使うものなどさまざまな製品が市販されていますので、変色の程度や作業性等を考慮し、使いやすい製品を選ぶとよいでしょう。
食器洗浄機と洗浄剤の除菌効果は実用テストの結果でも証明されています。機械洗浄における洗浄・除菌効果は、食器洗浄機の運転条件(例えば、洗浄時間・温度・水量・水圧・汚れの放置時間・前処理の有無など)に大きく影響されますが、ここでは、実際に各種の食器洗浄機を用いて、食器の汚れ(油脂、デンプン、細菌など)がどの程度除去できるか、実用条件下でテストしました。洗浄機は、代表的なフライトコンベアタイプと、最も普及しているドアタイプを使用しましたので、その結果をご紹介します。
このテスト結果を見ておわかりいただけるように、食器洗浄機と洗浄剤を用いた洗浄および除菌効果は非常に大きいといえます。
【 試験条件 】
【 試験条件 】
食器の種類 | 大腸菌数(cfu/mL) | |
洗浄前 | 洗浄後 | |
陶製皿 | (+) 4.2x107 | (-) < 10 |
陶製どんぶり | (+) 3.0x107 | (-) < 10 |
メラミン製皿 | (+) 3.6x107 | (-) < 10 |
メラミン製どんぶり | (+) 3.7x107 | (-) < 10 |
(+) BGLB陽性 (-) BGLB陰性
食器の種類 | 洗浄前 | 洗浄後 | ||
一般生菌数 | 大腸菌群 | 一般生菌数 | 大腸菌群 | |
陶製皿 | 2.3x106 | (+) 2.1x105 | <300 (2)* | (-) 0 |
陶製どんぶり | 1.5x106 | (+) 8.7x104 | <300 (6)* | (-) 0 |
メラミン製皿 | 7.8x105 | (+) 1.3x104 | <300 (220)* | (-) 0 |
メラミン製どんぶり | 2.7x107 | (+) 5.7x105 | <300 (76)* | (-) 0 |
( )*実測数
食器の種類 | 洗浄別 | 検査の種類 | |
前洗いあり・なし | デンプン | 脂 肪 | |
陶製皿 | 前洗いあり | (-) | (-) |
前洗いなし | (+) | (-) | |
陶製どんぶり | 前洗いあり | (-) | (-) |
前洗いなし | (++) | (-) | |
メラミン製皿 | 前洗いあり | (-) | (-) |
前洗いなし | (+) | (-) | |
メラミン製どんぶり | 前洗いあり | (-) | (-) |
前洗いなし | (++) | (-) |