手洗いは、手指に付着している目に見える汚れを落とし、さらに、有害な細菌を取り除くのが目的です。目に見える汚れは洗浄剤(固型石けん、液体石けんなど)で落とすことができますが、細菌は洗浄剤だけでは十分には落とすことができません。そこで、洗浄した後、さらに逆性石けんや消毒用アルコールで殺菌したり、あるいは、殺菌剤入り洗浄剤を使用して、洗浄と殺菌を同時に行います。それでは、手洗いはどのような順序で行えばよいのでしょうか?
脂肪酸のナトリウム塩が主成分です。原料の脂肪酸としては、パーム油、ヤシ油、牛脂などが使われます。
固型石けんを使いやすくするために、液状にしたものです。液状にするため、溶解性のよい脂肪酸のカリウム塩が使われます。通常、そのまま原液で使用しますが、濃縮溶液となっている場合には表示されている濃度に希釈して使用します。なお、液性は弱アルカリ性です。
石けんとは異なり、主成分のアニオン界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、モノアルキルりん酸エステルナトリウムなどが使用されています。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのような非イオン界面活性剤なども使用されます。皮膚のpHを考慮して、液性は中性ないし弱酸性のものが多いようです。
上記3種類の洗浄剤によって、目に見える汚れとともにある程度の細菌を除去することができますが、食品衛生上必要とされる手洗いは、これだけで十分とはいえません。そこで殺菌剤を用いて、手指についている細菌を殺菌除去する必要があります。殺菌剤を配合した洗浄剤を使って手洗いを行ったり、洗浄剤で手を洗った後に殺菌剤を使用したりして手指の殺菌を行いますが、使用する殺菌剤の種類や、特徴によって効果のある使用方法をとることが必要です。
洗浄剤に各種殺菌剤を加え、手洗いと同時に殺菌を行うものです。このような殺菌剤として、アニオン界面活性剤をベースにした洗浄剤では、イソプロピルメチルフェノールなどが使用され、非イオン界面活性剤をベースとした洗浄剤では、これらの殺菌剤のほか、後述のカチオン界面活性剤である塩化ベンザルコニウムなどが使用されます。なお、このような殺菌剤入り洗浄剤は医薬品、医療機器等の品質、有効性、及び安全性の確保に関する法律(略称:薬機法)の医薬部外品に相当し、製造、販売には厚生労働省の認可が必要です。
逆性石けんは、水溶液中で界面活性を示す部分にプラスのイオンを持っていますので、カチオン(陽イオン)界面活性剤といい、アニオン(陰イオン)界面活性剤(石けん等)と反対の電荷を持つ意味で「逆性」という表現が使用されています。代表的な逆性石けんには、塩化ベンザルコニウムと塩化ベンゼトニウムがあります。逆性石けんは、食中毒菌を含む一般細菌に対し強い殺菌力があることが認められており、毒性も低いために、食品衛生分野で広く利用されています。
逆性石けんは、石けんと一緒に使用したり、汚れや有機物などが存在すると殺菌効果が低下しますので、手指を洗浄した後、よくすすいでから使用することが必要です。
殺菌剤として使用されるアルコールは、エチルアルコール(エタノール)が主成分です。アルコールの殺菌作用は、有機物や金属イオンの影響をほとんど受けませんが、濃度が薄くなると殺菌力が低下します(60~80%が適性濃度といわれています)。したがって、手の水分をよくふきとっておく必要があります。
消毒用アルコールは、浸漬、塗布およびスプレーの形で使用されます。特に、アルコール用噴霧器は、作業中でも必要に応じて簡単に使用できますので、各作業現場に配置しておくと便利です。
調理場に入る前には、通常、調理衣に着替えますが、このとき、爪を点検し、伸びていれば切り、また、指輪などのアクセサリーや腕時計もはずします。爪が伸びていたり、アクセサリーや腕時計をはずさずにいたりしますと、その部分の洗浄が十分にできないだけでなく、細菌繁殖の温床になったり、異物混入の原因にもなります。また、マニキュアもはがれると異物となりますので、除光液などできれいに取り除いておきます。
固型石けん、液体石けん、または液状合成洗浄剤の適量を手のひらにとり、よく泡立てて、指先からひじまで約30秒間かけて、ていねいに洗います。このとき、爪の部分は菌が多いので、爪ブラシを使い、爪先の内側までよく洗います。
流水で10秒以上の時間をかけ、ていねいに洗浄剤を洗い流します。洗浄剤成分を手指に残さないために、すすぎを十分にするよう注意してください。
使い捨てのペーパータオル、ロールタオルで、水気を十分にふき取ります。普通のタオルを使用する場合、ある人が洗浄を十分行わずにタオルを使いますと、タオルに細菌が付着し、後で使用する人の手を細菌で汚すことになり、多人数での使用は好ましくありません。洗浄時に殺菌剤入り洗浄剤を使用すれば、洗浄と殺菌を同時に行うことができます。殺菌を十分に行って食中毒を防止するために、消毒・殺菌を行うことが大切です。
手指の消毒は、手のひらだけでなく、手指全体に消毒剤が接触するようにしなければなりません。特に、爪や指股部には細菌が生息しやすいので、これらの部分に消毒剤がゆきわたるように注意することが必要です。また、手洗いを行う際には、いずれの方法をとるにしても、手あれに注意しなければなりません。
消毒剤による手指の消毒には、可能であれば洗面器などを使用する貯水式は採用しない方が良いと思われます。それは逆性せっけんなどの消毒剤の中でも濃度が低いと平気で増える細菌(こういう菌を消毒剤耐性菌といいます)がいるからです。消毒剤を溶した液を長期間放置しておくと効力が低下し、こうした耐性菌が増殖してきます。また、有機物が混入してくると消毒効果が半減します。消毒剤の効果は万能ではなく、こうした耐性菌を含む液を使うと、消毒剤によって手指に大量の菌をつけることになりかねません。貯水式を採用しなければならない場合は、こまめに消毒剤をとりかえることが肝要です。