エタノールの最適除菌濃度は70~80重量%で、80重量%以上になると逆に除菌力が低下します。このことは、1910年代から経験的に明らかにされてきました。その実例を表1に示します※1)。
近年、エタノールと水の混合溶液の会合状態のモデルから、エタノール濃度が70重量%の時、エタノールと水の分子組成比が1:1となり、疎水基が平面状に並んで広い疎水面をつくり、細菌の細胞膜を破壊して蛋白質を溶出させることで除菌力を示すというという報告も出されています※2)
エタノール濃度 (w/w%) |
死滅させるのに要する時間(分) | ||
Beyer (1911) |
Gregersen (1916) |
Christiansen (1918) | |
30 | - | 300 | 35 |
40 | >60 | 37 | 5 |
50 | 47 | 5 | 1 |
60 | 12 | 1/2 | 3/4 |
70 | 1/2 | 3/4 | 1/2 |
80 | 22 | 2 | 1/4 |
90 | >60 | 22 | 1/2 |
100 | - | >7day | >60 |
※1)洗浄除菌の科学と技術 高野光男、横山理雄、西野甫 編(サイエンスフォーラム)
第1部 第2章 第3節 食品製造環境分野におけるアルコール利用とその除菌メカニズム[古田太郎]よりPrice.P.B.:Arch.Surg.,38,528-542(1938)
※2)西信之、最田優:化学と工業、47,168-171(1994)
エタノールは、芽胞を除く多くの細菌に有効です。病原性大腸菌、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオ、サルモネラのような食中毒菌に対しては、瞬間的な除菌力を発揮します。カビ、酵母に対しては、上述の菌よりは死滅させるのに若干時間がかかる傾向があります(長くても数秒程度)。
ウェルシュ菌、セレウス菌、ボツリヌス菌のような芽胞を形成する細菌に対しても、栄養型の状態であれば、瞬間的な除菌効果を示します。芽胞の状態での除菌力はありませんが、発芽阻害作用を示すので、菌数の増加を防ぐことができます。(表2参照)
また、代表的な食中毒菌に対するエタノールの除菌効果を図に示します。
感受性 (作用の強さ) |
食中毒菌 | その他微生物、 ウイルスなど |
大 (30)a) |
腸炎ビブリオ、大腸菌、 サルモネラ、カンピロバクター |
親油性ウイルス(HIV、ヘルペスウイルス、 天然痘ウイルス)、グラム陰性菌(緑膿菌など) |
やや大 (40) |
黄色ブドウ球菌 | グラム陽性菌(リステリア、乳酸菌など)、 酵母、藻類 |
中 (50) |
ー | アデノウイルス、ロタウイルス、カビ胞子 |
小 (>70) |
ー | 親水性ウイルス(ピコナウイルルス、 パルボウイルス) |
無効 | 芽胞(セレウス菌、ボツリヌス菌、 ウエルシュ菌)b) |
ウイロイド、プリオン |
a)短時間除菌に必要なエタノール濃度(%)の目安
b)栄養型細胞にはエタノールは有効