【 LECTURE SUMMARY 】
講演会要旨

• ノロウィルスの感染、流行と消毒

  平成24年12月12日、新潟薬科大学　応用生命科学部　食品安全学研究室の浦上弘教授をお招きして年末講演会が開催されました。今回はノロウィルスに関するご講演で今冬は特にノロウィルスが猛威を奮うとの予想もあって会員各位の関心が非常に高く、会場から溢れんばかりの80余名が聴講されました。
  　まずドイツや韓国などを例に世界的な流行の兆しをご紹介された後、ノロウィルスの特徴やタイプを説明されました。ノロウィルスは人の1000万分の1の大きさで非常に小さいにもかかわらず10～100個程度のごく微量でも発症させ、しかも感染は短期間で広範囲に渡り、治癒後も長期間体内に残っていることが多い等々、制御が非常に困難であるため、日常生活におけるこまめな洗浄、消毒が必要と留意点を指摘されました。
  　次にノロウィルス感染による症状の発症とABO式血液型との関係について、アメリカの文献を紹介されました。A,B,AB,O型を決める血液型物質の特定のタイプがノロウィルスの腸細胞への侵入でのレセプタになるらしい、と一般的にはあまり知られていない新たな視点からの内容で、「もしかしたら自分の血液型は感染しやすいのか？」と聴講者は自らに振り返り興味深々と聴き入っていました。しかも実験データを採取するためにボランティアの人にノロウィルスを飲んでもらったとのご説明は驚きをもたらしました。また通常使用するABO型とは違うルイス式血液型の話もして頂きました。
  　続いてカキについてご講演されました。我々の生活排水中にノロウィルスが含まれている場合、まず下水処理場で相当程度浄化され、河川、海へと放流されていくにつれて徐々に希釈されていきます。しかし、海でカキは栄養補給のためプランクトンを含む海水を百リットル単位で大量に飲み込み、ノロウィルスがカキの中にどんどん蓄積されるようです。下水処理場がない地方では、各家庭の浄化槽ではウイルスの除去が十分でなく、海に流れて行くことが懸念されます。この一連のプロセスを先程の血液型物質との関連性と合わせて丁寧にご説明され、アサリやハマグリに比べ生で食べる機会が多いカキを食べると何故ノロウィルスに感染し易いのか納得しました。ただ、汚染率は生食用より加熱用の方が高いこと、更にノロウィルスの感染原因はカキの場合は意外に少なく、人から人への方がより深刻というご説明は「目から鱗」でした。衛生管理意識の徹底と予防対策の実践が大変重要であると痛感しました。
  　後半は教授のご研究について未発表の内容も含めかなり踏み込んでご講演されました。 ノロウィルスやネコカリシウイルスの塩素耐性に関し、世界でよく引用される論文を精査された結果、実験に用いた懸濁液の問題点を指摘されました。そして塩素は有機物の混入により失活する（消費される）ので、有機物が少ない状態なら塩素濃度が一般的に効果があると言われている200ppmよりはるかに小さい1ppmのような場合でも量が多ければ十分消毒効果が期待され、同様にノロウィルスにも期待できるのではと提起されました。またアルコールはノロウィルスには効果がないとの従来の固定観念にも疑問を投げかけられ、pHや界面活性剤などの成分を加えることで相乗効果が期待できるといった興味深いご提案もされました。しかも研究に使用された消毒剤の製品名もズバリ発表され、聴講者にとって今後の製品開発に大変貴重なヒントを頂きました。