2018年5月22日開催
食洗協総会後講演会「組織と働き方の改革」で好評を博す


演題
「組織と働き方の改革」
講演内容
[講演内容]
【1】日本の企業社会が直面する3つの課題と対策
【2】生産性革命
【3】働き方改革
【4】人づくり革命
2018年5月22日開催
食洗協総会後講演会「組織と働き方の改革」で好評を博す
演題
「組織と働き方の改革」
講演内容
[講演内容]
【1】日本の企業社会が直面する3つの課題と対策
【2】生産性革命
【3】働き方改革
【4】人づくり革命
ご講演いただいた3つの課題はまさに安倍政権が掲げる重要政策のキーワードそのものです。
(1)生産性革命
(2)働き方改革
(3)人づくり革命
[1]日本の現状の問題点と原因
1)長時間労働の実態
日本の正社員の労働時間は2024時間(2016年)で主要国の中で突出して長く、しかもこの20年間ほとんど変わっていません。
しかもフランスやドイツよりも約3ヶ月余分に働いているにも拘わらず生産性は両国よりずっと低い状況です。
また、有給休暇の取得率は約50%ですが海外ではほぼ70~100%です。この背景には国によっては残した有給休暇を企業が
かなり高額で買い取らなければならないところもあるので取得を積極的に進めているという事情もありますが、プライベート時間を
大切にする国民性の違いが大きいと指摘されます。
2)各種調査の国際比較
ワーク・エンゲージメント(*)に関する調査では日本は一番指標が低く、次いで韓国となっており、
逆に高い国はインドやデンマークとなっています。前者は長期雇用、後者は転職の多い代表的な国です。
また別の調査では今の会社で働き続けたいとの回答は調査した国の中で日本が最も少ない一方、
今後も働き続けることになるであろうとの回答は最多でした。このことは日本人は
勤勉ながら不満があっても転職すると不利になると思っているようで、自ら積極的に関わろうとする
意識が低く受け身になりがちであることを示しています。
一方、インドやデンマークはより良い職場環境を求めて自発的に行動しているようです。
(*)仕事に対する積極的なかかわり方を示す指標で「没頭」、「献身」、「熱意」の3要素で構成
3)意識変革の遅れ
日本国民一人あたりのGDPや労働生産性は1990年代半ばごろから急速に低下しています。
世界ではこのころからIT化が急速に進歩、浸透し、単調あるいは単純な仕事はどんどん機械に取って代わられ、
生産性向上のためには人間特有の能力を発揮するような仕事を自発的に行うことが求められるようになりました。
しかしこの自発的な意欲を引き出す仕組みが日本の組織やマネジメントには不足し、生産性向上の足かせとなっているのです。
したがって、現在の延長線上では課題解決が困難で、抜本的な変革が必要です。
4)職場の非効率な部分(ムダ)
日本ではあらゆる場面で極め細やかな製品やサービスの提供が要求される余り、次に掲げるような非効率なムダが蔓延しています。
①過剰サービス(コンビニ等の24時間営業、時間指定の宅配、過剰包装、他)
②現実に合わない完璧主義(本質的でないほんの1部品の欠陥でも製品の返品を要求されるメーカー、
僅かな時間の遅れでも謝罪する交通機関、コンビニ等の過剰な食品ロス、他)
5)カイゼン型アプローチの限界
業種の中でサービス、金融、等の間接部門、職種の中で事務系ホワイトカラーの生産性が低いと言われています。
その理由は生産現場で成功したカイゼン型アプローチをオフィスでも適用したことに起因すると思われます。
カイゼン全盛の時代には「資料の作成」と「会議の開催」による情報の共有化と客観化が重視され、日本の技術を牽引してきました。
しかし、オフィスではカイゼン型アプローチを導入しても思い切ったブレークスルーが出来ません。
また文系の新卒者はそのままゼネラリストになり、何でも出来るものの裏を返せば何も出来ず、
専門能力が育たないと指摘されました。
さらに事務系ホワイトカラーの生産性が低い原因として以下のことを指摘されました。
①会議の回数、参加者が多く時間も長い。
②会議の意思決定システムが複雑で責任の所在が不明確。
③中間管理職が多く、その分厚い管理職層の既得権益確保により権限委譲浸透の足かせとなっている。
エース級の人材は管理職ではなく創造性のある攻めの仕事につかせるべき。
6)なぜムダがなくならないのか?
カイゼン型アプローチは時代が急速に変化しているにもかかわらず、過去の成功体験を拭い去れないだけでなく、
逆に、その成功体験をあらゆる活動に拡大していこうとすることに一因があります。
[2]生産性革命のカギは?
1)ドイツに学ぶ
ドイツは労働時間は短いにも拘らず生産性が高く、経済は好調を維持し続けています。
そこで先生はドイツを訪問され、現場を視察したり聞き取り調査をされました。その結果、次のような分析をされました。
①コンセプト、枠組みの重視(原理原則に戻れる)。
②コスト・パフォーマンスに照らした仕事の「仕分け」の徹底
利益が上がらない事業や業務は簡単に撤退、また大事な仕事以外は放置する。
③IoTなど技術革新の積極的導入
機械的な業務、ミスが予想される業務はコンピューターに任し、人間特有の能力を発揮できる仕事に特化する。
④専門的なキャリアの早期育成
10歳くらいから方向性を決めて専門性を育成する。
⑤「プライベート重視」と効率化、モチベーションの向上
限られた時間で仕事をこなそうとするため、無駄を徹底的に排除する。
したがってトレードオフがない、すなわち「仕事」と「プライベート」との板挟みにならない。
2)積極的な「外圧」の活用
先生は文字通りの外国からの圧力というより、組織の中に異質な人材を投入し組織の外からの圧力を活用すると説明されました。
例えば派遣社員採用や業務委託を推進することによって従来の固定化された風土を見直し、
それをきっかけに組織やマネジメントを変革することです。
3)中小企業がモデルに
オーナー経営者が多い中小企業は迅速な意思決定により思い切った改革がしやすいこと、
また大企業よりも外圧が一層強いため変革せざるを得ないことを示されました。
具体例として従業員はクリエイティブな仕事に専念し、労働作業はパソコンの遠隔操作で
ロボットにさせる企業、組織をフラット化し社長も含めてすべての階層をなくした企業、
IoTを積極的に活用し、在庫状況を含む会社全体の現状を常に把握しながら一人で製品を組み立てるという
一人親方制度を導入した企業等々を紹介されました。
[1]働き方の課題の根源
働き方は様々でも課題の根源はほとんど同じです。個人の仕事が組織や集団の中に埋没して
いることで先生はこれを「未分化」と定義されます。
例えば長時間労働を止められないのは、周囲の人が残っているから、また休暇を取りにくいのは
上司が休暇を取らないからといった状況では集団の中で個人が効率的に仕事をしても早く帰れないし、
休暇取得も言いだしにくいから効率化の意欲がおきません。逆に効率的な仕事の仕方は残業代が減り損だと思ってしまいます。
また残業と転勤は女性の活躍を阻む大きな壁となっています。
[2]改革のカギ ~「分化」の推進による社員のモラルアップ
新しい動きとして会社の中にいても半ば自営業的な働き方が浸透しつつあり、会社組織経営と
自営業の業際がなくなってきているそうです。
例えば、商品の企画、開発、マーケティングにいたるある程度まとまった仕事を一人でこなす働き方が出現し、
これを可能にしたのはITの進歩が大きく貢献しています。
①個人キャリアの「分化」
終身雇用では突出したイノベーションは生まれません。ドイツを参考に企業が専門能力を
持つ人材を抜擢して育成し、その人材が独立しても彼らとの協調関係が保てるようになれば
Win-Winの関係が成立します。著名なIT企業は既に実践し、大きく成長し続けています。
②物理的な「分化」
例えば仕切り無しの大部屋の職場環境は、事務処理のような作業的業務の効率化には有効ですが、
創造的な仕事には向いておらず、個室のような落ち着ける環境作りが必要です。
③業務の「分化」
中国や台湾では女性の管理職が非常に多いそうです。理由は残業と転勤がないので
女性としてのハンデがなく、個人の仕事の分担が明確になり、また会議が少ないので
仕事の見通しが立てられるからです。ただ先生が推奨される「分化」とはアメリカのように職務を
細分化して分担することではありません。何故なら仕事が硬直化する危険性があるからです。
人間は間違うということを前提にした意識改革に改め、必要な完璧な業務はAIに任せる一方、
人間特有の能力である創造性や感性を活かす仕事に注力すべきと提言されました。
先生は人材のタイプとして「イヌ型」と「ネコ型」を説明されました。
「イヌ型」:人間に忠実で決められたことは確実にこなすけれども受け身のタイプ
「ネコ型」:自由な発想を持ち、マイペースではあるが考えて自発的に行動するタイプ
最近は「イヌ型」の若者が多く、従順だが自ら行動しない、またチームワークに関しても受け身なのだそうです。
一方、せっかく「ネコ型」の新人が入社しても周囲の先輩たちが「イヌ型」扱いするとすぐ「イヌ型」に変わってしまいます。
したがって組織やマネジメントの仕組みを「ネコ型」人材を獲得できるように、また「イヌ型」から「ネコ型」に
育成する環境を与えられように変革できるかが企業の人づくり革命を左右する重要なポイントと指摘されました。
太田先生は今日に至るまで講演会やインタビュー、討論会等々、様々な活動を積極的に推進され、その数は実に
1000回以上に及んでおられます。
また著書も30冊以上上梓されており、先生のご専門に対する世の中の関心が非常に高いことが良く分かります。
今回のご講演で、世界中が急速に変化しつつあるなか、日本が直面している課題とその背景にある原因や問題点を
具体例も示されながら端的にしかも非常にわかりやすくご説明いただきました。
そしてその解決策に関しましては聴講した経営者、管理職、従業員が各々の立場で何を実践すべきかを考える
ヒントを明示していただき、今後の働き方を見直す大変意義深いご講演でした。
参考文献(太田肇先生ご著書)
・『なぜ日本企業は勝てなくなったのか』 新潮選書(2017年3月)
・『ムダな仕事が多い職場』 ちくま新書(2017年10月)
・『「ネコ型」人間の時代-直感こそAIに勝る-』 平凡社新書(2018年4月)
以 上