【 LECTURE SUMMARY 】
講演会要旨

• 米国の食品安全強化施策

  2011年1月4日にオバマ大統領がＦＤＡ^注１）によるＦＳＭＡ^注2）という食品安全強化法に署名を行い、連邦法として発効しました。それまでは1938年に制定され数次の改定があったＦＤＣＡ^注3）に準拠し、食品の生産・製造・流通の現場や過程に行政は介入しないというスタンスを基本的にとり続けてきました。しかしＦＳＭＡの導入は食品安全管理に対してＦＤＡに強力な行使権を与えるもので、実に約70年ぶりの一大改正となりました。
  　米国の食品市場の自給率は85％と高いものの生鮮果実・野菜の60％、水産魚介類の80％を輸入に頼っており、しかも年々着実に増加しているそうですが規制は従来のままでした。ところが、2001年の9.11同時多発テロ事件が決定的な引金となって、国防上の問題を様々な角度から抜本的に見直す一連の政策が実行され、食品の安全管理に関しても次の事が義務化されました。
  
  １．2003年施行の食品バイオテロリズム法
  ① 製造・加工、包装、保管、配送を行う施設はその名称、住所、電話番号、所有者名、管理者名を登録し、且つ偶数年に更新すること（国内品、海外からの輸入品を問わず）。
  
  ② 輸入者は直前の入手元、直後の受け渡し先を登録すること。
  
  ２．2011年のＦＳＭＡ
  経口するほぼすべての食品に対してHACCPを導入し、意図的な食品汚染防止措置を講じること（原材料、生鮮食品、加工食品を問わず）。
  　これらの施策を遂行するためにＦＤＡ査察官による査察の大幅な強化、各種の事前検査、検証、認証登録性、ＦＤＡによる記録検査権限、リコール権付与を導入しました。 従来の法律が「問題が発生してからの事後対処法」であったのに対し、今後は「リスク予知・予防型の安全管理」へと大きく舵を切ったわけです。特に輸入食品管理を強化し、外国施設の検査項目が大幅に増加され、対応次第では輸入を拒否されることになります。

• HACCPに対する日米の認識の相違

  日本・・・ HACCPは食品事業者が自主的に手法を導入し構築する食品安全管理の手法・手順の一つである。
  
  米国・・・ ＦＳＭＡの順守を義務化することによりHACCPは国が直接関与・管理する最も重要な安全管理ツールである。
  
  すなわち国としての安全管理意識が大きく異なるだけでなく、米国は更に一歩進めてHAZARD（健康危害要因）管理をこれまでのHACCP管理手段の分野と視野を超えて捉え、国家レベルでBeyond HACCP、既知、予知できる限りのリスクマネジメントへ展開していくことが明らかになってきました。

• 日本の対策

  米国は日本が食糧輸出する国々の中で第２位に位置し、最近では寿司ダネのように日本の特長ある食料品が伸びつつあり、今後日本にとって米国の重要性は益々増大すると思われます。ただ、あまりに検査内容が厳しいので米国への輸出を諦めた企業もあったそうです。またＦＤＡ査察官が直接日本へ出張して再査察を行う場合は、再派遣人件費と交通費を含めた必要経費すべてを日本業者が負担しなければならなくなりました。
  　そこで対策として寺原代表は第三者監査人、すなわちＦＤＡが認定した日本政府関係者や個人等の認証を受ける制度が準備中であり、今後利用することを提案されました。
  またこの認証を受けるため、事前に準備する最小限の項目を示されました。
  
  ① 危機分析の実行：既知又は予知可能な危害の分析を行っておく。
  
  ② 予防的管理措置：危機分析結果によるリスクに応じた措置を行うことで、危害を最小限、又は予防する措置を行っておく。
  
  ③ 文書化：製造食品への危害評価、危害防止のためリスクに応じた予防措置の特定と実行、またその記録と文書化を行い、保持しておく。
  
  　米国はこの認証を取得した食品関連施設からの輸入通関手続きを優先し、このプログラムに参加した業者が扱う食品に対して迅速な輸入手続きを行うことになるとのことです。