【 LECTURE SUMMARY 】
講演会要旨

2024/06/24

2024年5月10日開催

「食品安全・食品表示の過去・現在・未来 ～消費者の立場から～」
で好評を博す

2024年5月10日、一般社団法人 Food Communication Compass 代表　森田満樹　先生をお招きし、
「食品安全・食品表示の過去・現在・未来～消費者の立場から～」という演題で
総会後講演会が開催されました。

2024年5月10日、一般社団法人 Food Communication Compass 代表　森田満樹　先生をお招きし、
「食品安全・食品表示の過去・現在・未来～消費者の立場から～」という演題で
総会後講演会が開催されました。

演題

「食品安全・食品表示の過去・現在・未来～消費者の立場から～」

講演内容

【Ⅰ】日本における食品安全の取組
　　　[１]消費者が食品に求めるもの
　　　[２]日本の食品業界における信頼性向上の取組
　　　[３]消費者の役割
　　　[４]食品事業者の役割
　　　[５]食品衛生法の改正～「HACCP」の義務化と啓発活動
【Ⅱ】日本における食品表示の取組
　　　[１]食品表示に関する法律
　　　[２]食品表示の現在地
　　　[３]栄養成分前面表示検討会
　　　[４]期限表示
　　　[５]紅麴問題
【Ⅲ】食品安全文化の醸成に向けて
　　　[１]なぜ今、食品安全文化なのか？
　　　[２] 食品安全文化（Food Safety Culture）とは？
　　　[３]事業者が取組む食品安全文化
　　　[４]消費者起点の食品安全

• 【Ⅰ】日本における食品安全の取組

  　　　　 HACCPは世界共通の尺度です。先行したEUでは2004年に義務化の公布、2006年に
  　　　　 施行となり、その10年後にはそれまでを振り返った報告書が纏められています。
  　　　　 日本では2016年頃から義務化の動きが報じられるようになり、2021年6月１日から
  　　　　 制度化されています。
  
  
  　　　　 [１]消費者が食品に求めるもの
  　　　　 　 消費者が食品を選択する際に重視することは「鮮度」、「ブランド」、「産地」、「品質」、
  　　　　 　 「価格」、「健康」等々、様々ですが、「食品を安全に食べることができること」が全ての
  　　　　 　 前提条件になっています。
  
  　
  　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　　　 　　図１　消費者が食品に求めるもの
  
  　　　　 　 また食品の安全性に関する意識調査では96.3%が「安全性について関心がある」と
  　　　　 　 答えています。
  　　　　 　　 次に「食品の安全性」に不安に思っていることは、その時々で食品の事件があると前後
  　　　　 　 する項目があるものの種々の調査において総じて「食品添加物」、「残留農薬」、「輸入
  　　　　 　 食品」の３項目への関心が特に高いです。
  　　　　 　 さらに例えば「食品添加物」、「遺伝子組換え輸入食品」、「残留農薬」等について調査
  　　　　 　 を深堀していくと、不安に思ったきっかけは「食品の表示」が多いようで、「表示」と
  　　　　 　 「安全」は表裏一体です。
  
  　　　　 [２]日本の食品業界における信頼性向上の取組
  　　　　 　 次に2000年以降の食品安全・食品表示に関する事件と国の対応について説明されました。
  　　　　 　　 2000年の低脂肪乳等を原因とする大規模食中毒事件の発生や2001年の日本における
  　　　　 　 BSE牛発生報告等が契機となって食品衛生法等の抜本的改正が検討されました。
  　　　　 　 2003年5月に食品安全基本法が施行され、この年が食品安全元年とされました。
  　　　　 　 しかしその後も中国産冷凍餃子事件や食品の不適正表示、偽装表示等が多発したこと
  　　　　 　 が問題になったため、2009年9月に消費者庁が発足しました。
  　　　　 　　 この後は大きな事件が発生する毎に法改正が行われるということが繰り返され、
  　　　　 　 2015年4月食品表示法、2020年6月、食品事業者にHACCP実践を義務化した改正
  　　　　 　 食品衛生法が施行され、国として「食品の安全が第一」という認識が確立するように
  　　　　 　 なりました。
  
  　　　　 [３]消費者の役割
  　　　　 　 2003年に施行された「食品安全基本法」では食品の安全確保を最重要課題と位置付け、
  　　　　 　 国や地方公共団体および食品事業者の責務だけでなく、消費者の役割も明確に規定し
  　　　　 　 ています。
  　　　　 　 すなわち同基本法では消費者は施策についての意見を表明するよう努めることにより、
  　　　　 　 食品の安全性の確保に積極的な役割を果たすよう求められています。
  　　　　 　 また消費者基本法でも消費者は必要な知識の修得、情報の収集等、自主的かつ合理的
  　　　　 　 に行動するよう求められています。
  　　　　 　 さらに消費者は事業者と協働して食品の安全性の確保を推進する方向に変革してきて
  　　　　 　 います。
  
  　　　　 [４]食品事業者の役割
  　　　　 　 2000年代前半に食品安全に関する様々な事件が発生したため、消費者の信頼を確保
  　　　　 　 し向上させていくため、農林水産省は2008年3月に「食品業界の信頼性向上自主行
  　　　　 　 動計画」を策定し。食品事業者向けに５つの基本原則を策定しました。
  　　　　 　　　　　基本原則１　消費者基点の明確化
  　　　　 　　　　　基本原則２　コンプライアンス意識の確立
  　　　　 　　　　　基本原則3　適切な衛生管理・品質管理の基本
  　　　　 　　　　　基本原則４　適切な衛生管理・品質管理のための体制整備
  　　　　 　　　　　基本原則５　情報の収集・伝達・開示等の取組
  
  　　　　 　 これにより消費者基点が明確になり、事業者、特に経営者等の強い意志による従業員
  　　　　 　 に対する必要な教育訓練や風通しの良い環境づくり等、食品安全に対する自主的な取
  　　　　 　 組が求められるようになりました。
  　　　　 　 　 しかし、その後も大きな事案が散発したため、農林水産省は「食品事業者の５つの
  　　　　 　 基本原則」改定版を2016年1月に公表し、フードディフェンス対策を新たに盛り込み
  　　　　 　 ました。その中では食品事業者だけでなく、報道関係者や消費者にも食品の安全性に
  　　　　 　 関して理解を求めています。
  
  　　　　 [５]食品衛生法の改正～「HACCP」の義務化と啓発活動
  　　　　 　 近年の輸入食品の増加や食のグローバル化等、食を取り巻く環境の大きな変化に対応
  　　　　 　 するため、また東京オリンピック、パラリンピックの開催や食品の輸出促進を見据え、
  　　　　 　 厚生労働省は2018年に食品衛生法を改正しました。国際標準に合わせた食品衛生管理
  　　　　 　 「HACCP」を食品事業者に対して義務化するとともに健康食品の規制を強化し、
  　　　　 　 食品リコール報告制度等を導入し、一部を除いて2020年に施行されました。
  　　　　 　 　 また「HACCP」の視点を家庭でも応用できるよう消費者向けのパンフレットを作成
  　　　　 　 して啓発活動に努めています。
  

• 【Ⅱ】日本における食品表示の取組

  　　　　 [１]食品表示に関する法律
  　　　　 　 食品表示に関しましては食品表示法ならびに食品表示基準の改正が2015年4月に施行
  　　　　 　 され、5年間の経過措置期間を経て2020年４月に食品表示基準が完全施行されました。
  　　　　 　 その後も新原料原産地表示、アレルギー表示（くるみ、マガダミアナッツ、他）等の
  　　　　 　 改正、添加物不使用表示ガイドライン等の適用等、の施策が次々と行われました。
  
  　　　　 [２]食品表示の現在地
  　　　　 　 2015年の食品表示法施行後、先送りされてきた制度（原料原産地表示）の見直しが終了
  　　　　 　 し、アレルギー表示、栄養成分表示、期限表示（賞味期限）のガイドライン等の見直し
  　　　　 　 も順次進められています。
  　　　　 　 （１）食品表示懇談会
  　　　　 　　　　　2023年10月に第1回が開催された「食品表示懇談会」において、今までのような
  　　　　 　　　　　五月雨式の見直しや改正ではなく、今後の食品表示が中長期的に目指していく方
  　　　　 　　　　　向性を示す羅針盤となるような制度の大枠について議論することになり、具体的
  　　　　 　　　　　には以下の内容が検討されることになりました。
  　　　　 　　　　　　　　①諸外国との表示制度との整合性について
  　　　　 　　　　　　　　②個別品目ごとの表示ルールについて
  　　　　 　　　　　　　　➂食品表示へのデジタルツールの活用について
  　　　　 　　　　　　　　④改正内容の施行時期について
  　　　　 　　　　　　　　⑤食品表示制度の消費者への周知について
  　　　　 　　　　　　　　⑥各検討事項の議論の進め方について
  
  　　　　 　 （２）分かりやすい栄養成分表示に関する検討会
  　　　　 　　　　　栄養成分表示に関しましては第1回食品表示懇談会でFOPNL（容器包装栄養前
  　　　　 　　　　　面表示）のコーデックスガイドラインが紹介され日本でも検討が始まりました。
  　　　　 　　　　　また消費者庁主催の「わかりやすい栄養成分表示の取組に関する検討会」が開催
  　　　　 　　　　　され、森田先生も構成メンバーとして参加されました。
  　　　　 　　　　　議論を重ねられた結果、次のような「包装前面栄養表示に関するガイドライン」
  　　　　 　　　　　が策定されました。
  　　　　 　　　　　　　　①国内の法律に沿って、任意または義務とすることができる。
  　　　　 　　　　　　　　②各国で政府が推奨するFOPNLは1つだけである。
  　　　　 　　　　　　　　➂根拠に基づいた国又は地域の食事ガイダンス若しくはそれがない場合は
  　　　　 　　　　　　　　　健康・栄養政策に沿ったものでなければならない。
  　　　　 　　　　　　　　④FOPNLは政府主導であるべきであるが、民間部門、消費者、学界、公衆
  　　　　 　　　　　　　　　衛生学会などを含む全ての利害関係者と協働して開発すべきである。
  
  　　　　 　　　　　また中間取りまとめされた6項目から成る我が国における栄養成分表示の方向性
  　　　　 　　　　　について2024年度以降も検討される予定です。
  
  　　　　 　 （３）食品ロス削減のための食品期限表示の在り方の検討
  　　　　 　　　　　食品ロスは年々増加の一途を辿り、2021年度には523万トン（家庭系：244万トン、
  　　　　 　　　　　事業系：279万トン）と非常に大きな数量になっています。そこで国は2030年度ま
  　　　　 　　　　　でに2000年度比で半減させる目標達成に向けた施策パッケージを策定しました。
  　　　　 　　　　　その中では2005年に厚生労働省および農林水産省が策定した「食品期限表示の設定
  　　　　 　　　　　のためのガイドライン」について食品ロス削減の観点から期限表示の在り方の見直し
  　　　　 　　　　　を行い、賞味期限が到来した「まだ食べることができる食品」の取り扱いを検討し、
  　　　　 　　　　　食品寄附活動の促進につなげようとしています。
  　　　　 　　　　　これを含め2024年度末に予定している「食品ロスの削減の推進に関する基本的な方
  　　　　 　　　　　針」の見直しに反映させるようです。
  
  　　　　 　 （４）機能性表示食品制度の見直し
  　　　　 　　　　　①紅麴サプリメント問題
  　　　　 　　　　　　　2024年3月に紅麹サプリメント問題が発生し、非常に多数の健康被害者が出まし
  　　　　 　　　　　　　た。この問題を重く受け止めた国はまず官房長官が会社の自主回収の遅れを「誠
  　　　　 　　　　　　　に遺憾」と指摘する一方、消費者庁は届け出た全ての「機能性表示食品」約7000品
  　　　　 　　　　　　　の安全性確認について緊急点検を実施することを公表しました。
  　　　　 　　　　　　　さらに同社が紅麹を原料として直接卸販売した会社（52社）およびこれらの会社か
  　　　　 　　　　　　　ら原料を入手して製品を製造した会社（173社）の自主点検を求めました。
  　　　　 　　　　　　　この問題では企業としての危機管理体制、企業統治の在り方、品質管理体制の不備
  　　　　 　　　　　　　等が浮き彫りになりましたが、一方で国の健康被害情報収集制度が全く機能してい
  　　　　 　　　　　　　ないことが明らかになりました。
  
  　　　　 　　　　　②機能性表示食品の位置づけと課題
  　　　　 　　　　　　　食品表示法において、機能性表示食品は2015年4月より「いわゆる健康食品」
  　　　　 　　　　　　　の中の保険機能食品の１つに位置づけられています。
  
  　
  　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　　　 　　図２　食品における機能性表示食品の位置づけ
  
  　　　　 　　　　　　　安全性に関しては事業者の責任による届出だけで国は関与しないことになっており、
  　　　　 　　　　　　　「その他のいわゆる健康食品」よりも安全とされてきました。
  
  　
  　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　　　 　　図３　安全性の位置づけ
  
  　　　　 　　　　　　　しかしその機能性表示食品で大きな事故が発生したため、抜本的な見直しが必要に
  　　　　 　　　　　　　なりました。
  　　　　 　　　　　　　機能性表示食品の届出等に関する課題、特に安全性に関する３つの要件、「安全性評
  　　　　 　　　　　　　価」、「品質管理」、「健康被害情報等の収集」について、「機能性表示食品を巡る
  　　　　 　　　　　　　検討会」を開催し、「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」を改正し、5月
  　　　　 　　　　　　　末までに結論を出す予定です。
  

• 【Ⅲ】食品安全文化の醸成に向けて

  　　　　 [１]なぜ今、食品安全文化なのか？
  　　　　 　 国は2018年、改正食品衛生法で国際的に認められた「HACCP」に沿った衛生管理手法
  　　　　 　 の実施を事業者に対して義務化しました。しかしながら「HACCP」の手法を遵守して
  　　　　 　 も食中毒や異物混入等の事故や顧客の申し出はなくならないので、従来の「食品安全
  　　　　 　 に係る手順や規則の体系化、行動のマネジメント」に加えて「食品安全文化」が事業
  　　　　 　 者に求められるようになりました。
  
  　　　　 [２] 食品安全文化（Food Safety Culture）とは？
  　　　　 　 食品安全文化とは組織のトップマネジメントおよび直接現場で食品を取扱う従業者
  　　　　 　 のすべてが「組織全体で食品安全への認識が高くないと安全な食品を消費者に提供で
  　　　　 　 きない」との認識を確立し、維持させることです。
  　　　　 　 その概念は2010年代に米国FDA（食品医薬品局）副長官のフランク・イェナス氏が
  　　　　 　 「食品企業の現場の従業員における意識醸成・行動変容を促進するための取組み」と
  　　　　 　 して国際的に提唱して以降、この考え方が世界的にも浸透してきており、食品の国際
  　　　　 　 規格であるコーデックスの中でも「食品衛生の一般原則及びHACCPに関する付属文
  　　　　 　 書」に「食品安全へのマネジメントコミットメント」として「Food Safety Culture」
  　　　　 　 が追加されています。
  　　　　 　 　そして2018年GFSI（Global Food Safety Initiative）の世界食品安全会議で食品安全
  　　　　 　 文化が提案されました
  　　　　 　 一方、EUは2021年、コーデックスとほぼ同じ内容で、欧州委員会の食品衛生に関す
  　　　　 　 る規則を改定しています。
  
  　　　　 　 この食品安全文化の指標となるのは主に次の２つです。
  　　　　 　　　　　①トップマネジメント、相互のコミュニケーション、トレーニング（教育活動）
  　　　　 　　　　　②食品安全・品質に影響を与える組織の全ての部署を網羅する活動のパフォー
  　　　　 　　　　　　マンス測定
  
  　　　　 　 また米国ではFDAが2020年に発表した「よりスマートな食品安全の新時代」の中で
  　　　　 　 食品安全文化の推進を重点分野として位置づけ、事業者だけでなく家庭で調理する
  　　　　 　 消費者に対しても、より安全な食品の取扱い方法を提示する等、消費者教育を大事に
  　　　　 　 しています。
  
  　　　　 [３]事業者が取組む食品安全文化
  　　　　 　 日本では「Japan Food Safety Day 2023：食品安全文化」において、先行する食品
  　　　　 　 事業者や大学が食品安全文化に関する自社の取組や食品安全文化に関する調査結果等
  　　　　 　 の様々な事例が紹介されました。
  　　　　　 　 さらに事業者が自社のウェブサイトで食品安全文化について触れるところが散見さ
  　　　　 　 れるようになってきました。
  
  　
  　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　　　 　　図４　「Japan Food Safety Day 2023：食品安全文化」の概要
  
  　　　　 [４]消費者起点の食品安全
  　　　　 　 事業者が食品安全文化を提唱する際、消費者起点で食品安全を第一として、現場で
  　　　　 　 きちんと取組まれているかを常に検証し続けることが最も重要です。
  　　　　 　 そのために経営トップは社内ルールや組織体系の見直しとともに従業員とのコミュニ
  　　　　 　 ケーションに努め、安全教育や働きやすい風通しの良い職場環境の整備を心掛ける一
  　　　　 　 貫性のある取組を推進する必要があります。
  　　　　 　 このような取組を実践することにより、消費者から信頼される事業者と評価されるこ
  　　　　 　 とになると思われます。
  　　　　 　　 一方、消費者も食品安全に対する食品事業者の努力に理解を示し、自らが出来るこ
  　　　　 　 とを積極的に実行していくことが重要です。
  
  　　　　 　 以上のように官公庁、食品事業者、消費者が一体となって食品安全文化を醸成して
  　　　　 　 いくことにより安心・安全な食品を食していけるようになると思われます。
  
  　
  　　　　 　　　　 　　　　 　　　　 　　　　　　 　　図５　食品安全文化醸成の概念
  
  今回は「食品安全・食品表示」という私たち消費者にとりまして非常に身近なかつ極めて重要な課題を取り上げていただき、非常に多くの会員が聴講しました。
  森田先生はFood Communication Compassの代表として、また消費生活コンサルタントとして全国各地での講演や指導、また執筆活動を精力的に続けておられるだけでなく、国が主催する検討会や委員会の委員を歴任され、公職に関しましても幅広く活動されておられます。
  今回のご講演では今年3月の紅麹問題も含め、食品に関する不幸な事例が発生した場合の原因の究明方法や法改正を含む国の対策だけでなく、一方では食品安全に関する国際的な動向等、私たちが入手できない貴重な情報を多数ご教示いただきました。
  また「自分の会社や仕事が家族に見られて恥ずかしくないか？」を常に意識することが大事と説明されましたが、私たち一人一人が自戒すべき意義深いお言葉でした。
  森田先生の「食品安全・食品表示」に対するほとばしる情熱がご説明の最初から最後まで一貫して感じられ、時間の経過を忘れてしまう大変有意義なご講演でした。
  
  【引用文献】
  
  森田　満樹　先生：日本食品洗浄剤衛生協会の総会後講演会資料
  　　　　　　　　　「食品安全・食品表示の過去・現在・未来～消費者の立場から～」　
  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2024年5月10日）