2014年12月2日開催
食洗協年末講演会「食品安全等に関する最新動向」～日本国内の国際化対応は～で好評を博す
平成26年12月2日、株式会社鶏卵肉情報センター 代表取締役社長 杉浦嘉彦様をお招きし、「食品安全等に関する最新動向」～日本国内の国際化対応は～ という演題で年末講演会が開催されました。
演題
「食品安全等に関する最新動向」～日本国内の国際化対応は
講演内容
１） 日本国内の国際化対応
２） GFSIとFSMA
３） HACCPの必要性
４） 新しい課題―意図的混入の防止
５） 自立型のHACCP導入基準を目指して
日本では少子高齢化が進み、将来更に加速する状況下では市場が縮小していくことが予測されます。危機感をもった経営者はこの状況から脱却するため海外進出を目指しますが、その過程で食品安全の世界標準規格との整合性が必要と気づき始めました。
世界で求められる食品安全の手法で最も認められ普及しているのがHACCP手法です。しかしながら国内にはこれまで独自に進化してきた施策・制度があり、国際標準のHACCPとはかなりかけ離れていたため、越えられない壁が出来ていたのです。
杉浦社長はこの壁を乗り越える野心的アプローチによって新たな道を捜すことを提唱され、国際標準とその整合の必要性を熱心に啓蒙されてきました。そうした中、安倍政権の「日本再興戦略―JAPAN is BACK」が追い風となって行政に2つの重要な動きがあり、ここ1、2年で行政、食品事業者共に非常に大きな変革の起点に立っています。
(a)農林水産省のGFSI*1承認スキーム
食料産業の取引における食品安全や消費者の信頼確保に関する国際標準に係る戦略を検討するための「食料産業における国際標準戦略検討会」が平成26年5月に設立され、4回開催され報告書が出ています。それによると今後は官民連携し日本発の食品安全マネジメントに関する規格・認証スキームの構築を目指すとともに人材育成や海外への情報発信を推進する予定です。
(b)厚生労働省のHACCP普及検討会
食品製造におけるHACCPによる工程管理の普及のための検討会の中間とりまとめが平成25年12月に公表され、総合衛生管理製造過程を中心としたこれまでの制度の反省点を踏まえてCODEX*2のHACCPガイドラインに基づく基準を新たに設定することが謳われました。そして平成26年5月に公示され、平成27年4月1日から施行の予定です。
それでは世界の動向はどうなっているでしょうか？
(a)GFSI
GFSIは世界チェーンストア協会が食品安全のグローバル規格の必要性を共有し、食品の安全性の向上、消費者の信頼、コスト削減を目標として平成12年5月の年次理事会で承認した組織として発足しました。その理念に賛同した先駆的なグローバル企業はサプライヤーに対しGFSIが承認した食品安全システム規格の第三者認証取得を要請するようになり、今では世界をリードする企業の多くがGFSI認証を求めるようになってきています。その認証のカギとなるGFSIが承認する国際標準規格はCODEX*2のガイドラインとNACMCF*4のガイドラインの2つです。その認証を取得するためにGFSIでは基本レベルから中級、上級の3段階のステップアッププログラムを用意して認証取得を支援しています。
(b)FSMA
FSMAは米国で制定された法律です。背景には食中毒の深刻さの増大、食品のグリーバリゼーションの進展、食品テロの懸念の増加、等があり次の対策を法制化しました。
○ハザード分析と予防的コントロールの義務化
○外国サプライヤーの管理
○食品防衛による意図的汚染の予防
○記録へのアクセス権をFDAに付与
この法律により
○食品施設はハザード分析を行い、予防的コントロール計画書を作成し、実行する。
○農作物などは生鮮食料基準の要求事項に従って製造されなければならない。
○外国サプライヤー検証プログラムを実施し、輸入食品の安全性を検証する措置を講じなければならない。
ことになり、米国への輸出はHACCP、GAP*5が必須となります。
(c)各国の動き
食品汚染問題が度々ニュースとなる中国は官民連携して行動計画策定を目指すだけでなく、独自のいわゆるChina HACCPの申請書をGFSIに提出し、承認一歩手前まで来ています。このほか、欧州、米国以外にも韓国、香港、カナダ、オーストラリアといった日本を取り巻く国々でHACCPが次々と法制化されてきています。
まずHACCPすなわちHazard Analysis & Critical Control Pointの正確な訳語は危害分析重要管理点ではなく危害要因分析必須管理点で、特に「要因」と「必須」の箇所を強調されました。フード・チェーンが国際化、複雑化していく中で食品取引における品質保証のしくみのため、安全性の標準化、すなわち世界共通言語の必要性が増大しています。そしてグローバル企業によるGFSIの認証取得要求の増加や米国でのFSMA制定によるHACCPの義務化等が追い風ともなり、一番信頼されているHACCPが必須要件となります。HACCPは失敗が起こることを前提としてその原因を事前に摘み取る手法で5手順と7原則で構成されていますがその3要素は
○何をどこで管理するかを決め
○実際にどう管理するかを決め
○管理の妥当性を証明し記録する
であり、食品安全の根拠、証拠をいかに作るかということで、その具体例として加熱調理済冷凍ハンバーグの製造フローにおける管理書式を詳細に説明されました。
日本が独自の優れた品質を世界に証明するためには何と言っても国際化対応が必須で、そのためにFCP*6共通工場監査項目に「責任者の設定」、「力量評価の実施」、「CODEX HACCPの導入」を追加するとGFSIとの整合性が高まります。
平成27年4月には管理運営基準に基づいたHACCPが法律としてスタートし、加えてGFSIの影響もあり国内の工場監査もCODEX HACCPが基本となります。従ってHACCPが「農場から食卓まで」の食品すべての業種・分野における商取引の核になることにより、取引先とのコミュニケーションが世界の共通言語でやりとりできるようになり、結果として消費者信頼の向上が期待されます。
HACCPは第三者の意図的混入や食品不正といわれるサプライヤーの裏切り行為を守る手法ではありません。ただし予防的な考え方は意図的混入の防止にも通じます。「性悪説」に則った対策では、莫大な投資をしてもフードディフェンスは必ず失敗します。何故なら「ヒト」の問題、例えば人事制度等で不満を持った従業員がいた場合には裏切り行為が発生する背景があるからで、経営者が従業員のモチベーションを高揚させる仕組みも大事ですが、さらに踏み込んで組織（権限と責任）を明確にした制度を実践することが肝要です。GFSIはこの課題についてFSMS*7の中でHACCPと同じように基本的な工程分析をして、食品防衛については脅威、食品不正については脆弱性に関する評価をし、CCPを管理する手法を提唱し始めています。
食への信頼性確保は世界共通のテーマでその達成のためには世界で通用する共通言語HACCPが必須条件です。今後は従来の誤った固定観念に基づくお仕着せ型から行政の補助事業の有効活用や取引先との連携等により、効率よくかつ迅速に世界で認められる自主管理型のHACCP手法へ転換していく必要があります。
杉浦社長は月刊「HACCP」の記者としてのお立場を原点として、全国各地での講演や食品現場の指導、支援を通じて世界共通言語としてのHACCPの普及を精力的に推進しておられます。その一方で、厚生労働省や農林水産省という行政との係わりも深く、一般に入手できない核心情報にも精通されておられます。今回はこのような貴重な情報もご紹介いただき、聴講者だけでなく当協会会員各社にとっても非常に有益な講演会でした。 *1 Global Food Safety Initiative 世界食品安全イニシアチブ *2 Codex Alimentarius WHO/FAO 合同食品規格委員会が定めた食品規格の実施機関 *3 Food Safety Modernization Act 食品安全現代化法 *4 National Advisory Committee on Microbiological Criteria for Foods 全米食品微生物基準諮問委員会 *5 Good Agricultural Practice 農業生産工程管理 （または適正農業規範） *6 Food Communication Project 食品関連事業者による協働対話型の消費者信頼プロジェクト *7 Food Safety Management System 食品安全マネジメントシステム